検車場で見ていた九州勢から大歓声が上がった。ダークホース的な存在だった井上が快心のカマシを決めると高木を振り切ってのゴール。九州の若武者が見事栄冠を手に入れた。
「まさか優勝を獲れるとは…。高木さんとは最終ホーム前後に緩むところがあるからカマシで行こう、みたいな作戦だったが見事に決まりましたね。ゴールした時も『あれ?変わってないのかな?』みたいな気持ちで(笑)。この優勝はまず家族と練習仲間の皆に報告したい」
これでグランプリ出場の権利を得たがまだ実感は沸かないのが正直なところ。
「まだ2回目のG1の決勝ですからね。一度目はリキんだけど今回はリラックスして走れた。これでグランプリの権利を取りましたが、正直実感はないですね。これからサボらずに一生懸命やってれば責任感も生まれてくるんじゃないかな」
2着惜敗の高木は地元でのG1Vが見えていただけに、悔しい悔しい2着となった。それでも表彰式を終えて引き揚げてくると、笑顔でレースを振り返る。
「お前か、俺が勝てるように頑張れとは言ってありました。打鐘で行きかけたので、まだまだって落ち着かせた。井上君は強かったけど、僕は弱い…。抜けると思ったけど、最終三角で井上君の後輪がスリップして僕もバックを踏んだのが痛かったなぁ」
3着の佐藤慎太郎はこれでグランプリ当確と言えるまでに賞金アップ。勝てなかったが、心持ち余裕のある表情に見えた。
「判断ミスですね。白戸さんと併走になって苦しくても、高木さんを追うべきだった。ああなってしまったら自分でまくる脚が無いと勝てないですよね」
タイトル奪取の舞台は整ったかに見えた武田は井上の奇襲攻撃に対応が遅れ、力を出せずじまい。さすがに言葉少な…。
「冷静に落ち着きすぎていたのかな…。井上君が来たと思った時にはヨコに並ばれてた。やっぱりあそこで仕掛けてくるとは思えなかった。最近の彼のパターンだとまくり追い込みだったから…。後ろがもつれると思ったし、ホーム線あたりから駆けるつもりでいたが…」
手島は無言のまま、検車場を後にした。手島後位の諸橋も後方のまま終わり、悔しげにレースを振り返る。
「番手がもつれそうだとは思っていたが、あの展開になるとは…。ヤバイと思ったがどうしようもなかった。まあ仕方ない」
武田の上昇に合わせて番手勝負を狙った白戸は、最終ホームでの判断を悔やむ。
「武田さんと一緒に上がったんでは遅かった。先に踏み上げるべきでしたね。最終ホームで再度追い上げたが、あれがカマすくらいの気持ちで踏んでいれば、綺麗に三番手に入れたんじゃないかな」
自力か、さばきか、動向が注目された市田は打鐘で粘るかに、車を下げた。そこで井上に行かれてはさすがに対応出来ず。
「打鐘で粘るつもりはなかった。ヨコよりもタテを基本に勝負するつもりでした」
地元バンクでのオールスターに燃えた佐々木は切り替えての直線強襲も4着まで。惜しくも表彰台は逃したが、得るものはあったようだ。
「市田君に任せていたので仕方ない。自分でまくるくらいの勇気があれば良かったんだろうね。良い意味でプレッシャーの中で過ごせましたよ」
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