展開ばかりか、天候までもが、石毛のGII初優参Vを後押しした。メンバーが確定後に、「雨が降らなければ…」と石毛はポツリ。願いは天に届いた。一時、大雨洪水警報が発令された程の悪天候で、視界が遮られ、車輪のスリップも頻発した最終日。だが、9R後に雨が止み、決勝の直前には路面の水膜が薄らいだ。幾度も尻込みした先手ライン優勢の悪路が消え、まくりのスペシャリストを自他共に認める細身には、「勝ちを意識せず、見せ場だけは作る」と謙虚な闘争心が宿った。神山、小野ら超一流が相手でも、「スピードが売り」を実証するには、格好の舞台が用意された。
三分戦ながら存在を無視するかの如く、武田、稲垣がプライドをも賭け先行争いを演じた。この決着が付いた後、最終二角の踏み出しで「行ける」と手応えをつかむと、中バンクを使って、行く手を阻む神山ら前団を一蹴した。それでも、ゴールでは小野と並んだ。「半信半疑」な気持ちは、胴上げを準備する森下太志ら千葉組から「勝ったね」の声で、確信に変わった。
八番手からの大逆転は、ラッキーパンチの産物とは違う。右鎖骨骨折の影響が失せた他、ダービーで不発続きの屈辱を晴らすべく、早朝から練習量を大幅にアップ。利根川勇(32期)との「嫌という程」のオートバイ誘導が加わり、蘇った脚勢が逆転を可能にした。師匠の小林裕司も「獲って、当然」と復調ぶりに太鼓判を押す。クリップバンドの相次ぐ故障、鎖骨骨折で壊れたリズムは、金星で修復が終了。以前の好調を支えた硬度の高いフレームと復縁し、「自信が持てた。ぶっ飛ばないのが大事」と、大好きな夏場に“一発屋”からの脱却を目指す。
1/8輪と、僅かな差に小野は涙を飲んだ。武雄決勝での1着失格に続き、ふるさと初制覇を逃がし「落車覚悟で全身を投げ出す形なら勝てたか」と、ハンドルの投げ方を悔いるコメント。続けて、「石毛君に気付くのが遅れた。インへ斬り込みながら、スピードに合わせるのが難しかった」と最終バック過ぎを振り返る。
「いい展開だった」と自ら評すように、神山にも絶好のVチャンスは巡っていた。だが、小野にインから弾かれ7着と、四角ハコが暗転する結末。「最終ホームで武田君から一瞬離れ、余裕がなくなった。後ろの小野君も気になった。それだけで動きが制限される。番手から出るわけにいかないし」と、百戦錬磨でも詰めが甘かった背景を語る。
壮絶な主導権争いは、武田、稲垣が共に公約の「先行」を実現しようとした産物だ。結果的に石毛Vを演出したものの、武田は「仕方ない。まくりでは七番手になる。稲垣君から(先行する)気配、気持ちが強く伝わらなかったし」。シリーズ1勝止まりに、「ゼロからトレーニングをする」と今後を見据える。
稲垣は「先行争いは覚悟していた」と、武田の評とは異なる意識を強調する。雨走路が得意なはずが、叩き切れなかったのは、「打鐘の後で後輪が滑って…」と悪路が原因だった。
3着同着の二人は対照的な表情。豊田が「上出来」と話せば、室井は「悔いが残る。最後はコースがなくて全力を出していない」。竹内は「力不足! 石毛さんがあんなに強いとは…」と、落胆し帰途につく。
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